和泉式部、保昌が妻にて、
「保昌が妻」は「保昌の妻」ということ。
※「我が子」と同じ働きの「が」で、連体修飾格を示す格助詞です。
丹後に下りけるほどに、
丹後
地名
今の京都府北部。
京に歌合ありけるに、小式部内侍、歌詠みにとられて詠みけるを、
歌合
平安・鎌倉時代、宮廷や貴族の間で行われた、和歌の優劣を競うあそび。左右二組に分かれた歌人が歌を詠み、その優劣を判定して左右の勝敗を競うもの。
定頼中納言たはぶれて、
たはぶ・る 【戯る】
自動詞ラ行下二段活用
①遊び興じる。
②ふざける。冗談を言う。
小式部内侍、局にありけるに、
つぼね 【局】
名詞
①部屋。大きな建物の中で、仕切りをした部屋のこと。
②宮中で上記①を持つ女官。
「丹後へ遣はしける人は参りたりや。
つかは・す 【遣はす】
他動詞サ行四段活用
①お遣わしになる。派遣なさる。おやりになる。▽「遣(や)る」の尊敬語。
②お与えになる。お贈りになる。おやりになる。▽「与ふ」「贈る」の尊敬語。
③行かせる。やる。与える。贈る。
いかに心もとなくおぼすらん。」と言ひて、
おぼ・す 【思す】
他動詞サ行四段活用
活用{さ/し/す/す/せ/せ}
お思いになる。▽「思ふ」の尊敬語。
※「心もとなくおぼす」は「不安にお思いになる」ということ
局の前を過ぎられけるを、御簾より半らばかり出でて、
みす【御簾】
すだれのこと。
なか-ら 【半ら】
名詞
①半分。半ば。
②中途。途中。中ほど。
③まん中。中心。
④大半。ほとんど。
わづかに直衣の袖をひかへて、
なほし 【直衣】
名詞
正服・礼服でない直(ただ)の服の意で、平服をいう。貴人の常用の略服。
大江山いくのの道の遠ければまだふみもみず天の橋立
と詠みかけけり。
思はずに、あさましくて、
おもは-ず・なり 【思はずなり】
①思いがけない。意外だ。
②心外だ。
あさま・し
形容詞シク活用
①驚くばかりだ。意外だ。
②情けない。興ざめだ。
③あきれるほどひどい。
④見苦しい。みっともない。
「こはいかに、かかるやうやはある。」とばかり言ひて、
こ-は-いかに 【此は如何に】
連語
これはまあ、どうしたことか。
かかる 【斯かる】
このような。こんな。こういう。
※「かかるやう」は「このようなこと」ということ。ここでは小式部内侍が「大江山…」の和歌を即座に詠んだことを指す。
返歌にも及ばず、袖を引き放ちて、逃げられけり。
「返歌にも及ばず」とは定頼が歌の返しができないことを指す。
小式部、これより歌詠みの、世に覚え出で来にけり。
おぼえ 【覚え】
名詞
①評判。世評。▽世間からの思われ方。
②〔多く「御覚え」の形で〕寵愛(ちようあい)。目上の人からよく思われること。かわいがられること。
③感じ。感覚。
④記憶。心あたり。思い当たること。
⑤(腕前などの)自信。
これはうちまかせての理運のことなれども、
「うちまかせて」…「ありふれた」
「理運」…「当然」
かの卿の心には、
「かの卿」は「あのお方」という程度のニュアンス。ここでは定頼のこと。
これほどの歌、ただいま詠みいだすべしとは、
ただ-いま 【只今・唯今】
副詞
①ちょうど今。現在。つい今しがた。
②すぐさま。直ちに。
知られざりけるにや。
に-や
連語
…であろうか。…であったのだろうか。
※「にやあらむ」「にやありけむ」の形で用いられ、疑問を表す。「あらむ」「ありけむ」は省略されることも多い。「にか」もほぼ同じ意味。
※断定の助動詞「なり」の連用形「に」+疑問の係助詞「や」
